凪の保持する天


その日、詩鶴ははにかみながら、畑のシロツメクサで作った花冠と首飾りを、おずおずと差し出した。

「おばさま、お誕生日おめでとう。」
「おめでとう、ですって?」
「何がめでたいの?こんなもの!」

天音の母は詩鶴の心づくしを払いのけたばかりか、ヒールのかかとでWedding Shoulder 價錢踏みしだいた。
驚きのあまり大きな目を見開いたまま、詩鶴は言葉を失って立ちつくし呆然としていた。
足元には、心を込めて作った花の残骸が散らばっていた。
涙を零す暇も与えないような激しい憤りに、傍にいた天音の胸にも何故…と疑問が渦巻いた。

「お母さん。詩鶴を叱らないで。ぼくがお母さんのお誕生日を教えたんだ。」
「詩鶴はただ、お母さんに喜んでもらおうと思っただけだよ。こんな???」

その時の母の視線を天音は一生忘れない。
いたいけな子供に向けた憤怒の表情は、天音が思わず後ずさりするほど烈しい物だった。
天音には、何とかそこから詩鶴をそっと連れ去ることしかできなかった。
涙を浮かべた可愛らしい天使は、そこから先もいつも悲しい目にばかりあっていたように思う。
幼い詩鶴を守ってやりたかったが、あまりに若い天音は無力だった。

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「天音お兄ちゃん???」
「???ぼく、わるい子かなぁ???」

踏みしだかれた、花冠の残骸を悲しげに詩鶴は見つめていた。

「詩鶴が悪い子のわけないだろう?」
「でも???でもね???、おばさまは、ぼくをきらいね????」

鈴を張ったような大きな目を向けて、詩鶴は天音に出せない答えを待っていた。

「どうしてかなぁ???」

詩鶴は誰に問うでもなく、一人理不尽な嵐に耐えていた。
宥める言葉を失って、天音は仕方なく小さな詩鶴を背負うと花の下を散歩した。
病院経営にDerma 21 好唔好忙しい父親は、妻に似た詩鶴を眺めるのが辛かったのだろう。
いつも詩鶴の世話は、家政婦任せにしていた。
たった一人、誰も話し相手のいない食卓で、詩鶴は一人で食事をとった。
受験勉強で忙しい天音と過ごすわずかな時間だけが、詩鶴の安らぎだった。

「詩鶴???」

いつしか小さな寝息が聞こえる。
背中で重くなってきた温もりのある存在に、天音はほっと息をついた。
満開の桜の下で、同じ顔の儚い女性に託された少年を天音はそっと前に滑らせ、抱きなおした。
閉じた目元に、涙の跡がある。
柔かい頬に唇を寄せ舐めたら、甘い塩の味がした。


拙作「新しいパパができました」の前の話になります。
詩鶴が生まれたところから、お話は始まります。
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天音が全てを知るには、まだしばらくの時を擁した。

10歳の年の差はどうしようもなく、受験を控えた天音は詩鶴と過ごす時間が減ってゆくのを気にしていた。
全国区の進学校、州灘高校でも常に上位の成績を音に周囲の期待は大きく、父親のように優秀な外科医師になる道を嘱望されていると感じていた。

「今度もA判定なのね。あなたはお祖父様に似たのね。お母さん、鼻が高いわ。」

気位の高い母は、天音が自分の理想通りに成長していると喜び、その愛はすべてわかりやすく過剰に注がれていた。
負担に思うこともあったが、それでも母の機嫌を損ねるわけには行かなかった。
母の怒りは、なぜか常に詩鶴に向かうから???。

「お母さん。この分だと医学部は大丈夫のようです。」
「僕の数学好きは、お母さんに似たんですね、きっと。正直、苦にならなくて助かってます。」

天音は自分に似た顔を覗き込むと、母の自尊心をくすぐった。
元来男子は、母に似るのだ。
天音の成績に母は満足し、その姿に息子は安堵する。
自分が期待に応えてDerma 21 好唔好さえいれば、母は夕ように穏やかでいられるのだ。

「お母さん。時間大丈夫ですか?笹塚のおばさまは、きっと首を長くしてお待ちですよ。」
「そうだわ、もう行かないと。今日は帰りも遅くなりますからね。お父さんにも伝えておいて。」
「ええ。」