連れて世界に


「どこにも行くなよ。ずっと、おれの目の届くところに居ろ、翔月。」

小さく頷いた翔月の目元がぷくりと膨らみ染まった。

「泣くな。おれがいつも傍にいるから。」

「ん……青ちゃん……」

「更科君?気分悪くなって、さっき帰ったよ~。」

「朝来た時から、具合悪そうで、顔色悪かったじゃん。荏田ぁ、ナイトなのに知らな楊婉儀幼稚園かったの?」

確かにそうだった。いつもより顔色を白くして現れた翔月を労わるどころか、激高して詰って傷付けて泣かせた……。

「それで、翔月は?」

「今日は養護の先生お休みだから、すぐにも帰った方がいいだろうって、担任が自家用持ってる先生を探しに行った。軽い熱中症かもしれないなって言ってたよ。」

いつか柏木は、翔月を捕らえて虐めた。
初めて翔月と思いが通じた日、めくったシャツの下に、赤くぷくりと腫れた痛々しい胸の小柱を見つけた。仰天した青児が相手は誰だと詰め寄った時、ごめんね……と、翔月は俯いて小さな声で打ち明けた。



「そうか。大変だったな。泊まる場所がないんなら、小父さんちに来るか?何時まで居たっていいんだぜ。小父さんにも、そのくらいの甲斐性はある。ん?金がないならホテルにも泊まれないだろ?まだ野宿は寒いもんなぁ。」

「……ほんとぅ?」

「ああ。わけありだろ?小父さんはさ、こう見えても面倒見がいいんだ。何、泊まり賃なんていら楊婉儀幼稚園ないさ。困ったときは御互い様だ。どうせ、一人暮らしなんだ。」

「……でも、そんな……悪いよ。」

「いいって、いいって。」

男は涼介の少ない荷物を手に取った。

いきなりその場で腹が減ったとしゃがみ込み、涙にくれた涼介にたらふく飯を食わせてやったのが始まりで、そのまま月虹に懐いてべったりとくっ付いている。
どう見ても高校生にも見えない一宿一飯の小犬を、昼間の戻してやろうと、月虹は何度も家に帰るように言って聞かせたが、小犬は決して首を縦にふらなかった。理由を聞いても、母親の再婚相手が嫌な奴だからと、はぐらかしてばかりで、結局、諦めた月虹は涼介のしたいようにさせている。
それほど毛嫌いするからには、何らかの理由があるんだろう位に思っていた。
やがて、月虹は入り浸っている鴨嶋組に涼介を行った。組と言っても、組長は高齢で、組員は数人しかいなかった。

「女に生まれて運が良かったな。あんたには返すもんがあるだろう?夢があるなら、なおさら良い。きっちり借金にカタ付けて新しく人生やり直す勇気を持ってみるか?あんただったら、二?三年もあれば借金何ざ終わっちまうだろうさ。おれが中に入って話を付けてやるよ。金も立て替えてやるから、おれに月々返しゃあいい。店もおれが世話してやる。頑張ってみな。」

そんな月虹の言葉を、雪ちゃんはうんうんと頷きながら聞き、しばらくの間、月虹の胸で泣いた。
そして、その日の夕方には、雪はスーツケースを片手に月虹の紹介したヘ黃斑部病變ルスの戸口に立っていた。母親も安っぽい連れ込みホテルの受付で働けることになった。