焼きそれほど



母は脳貧血を起こしてふらつき、父は鬼のような形相で取りあえず周囲に他人の目がないか見渡してから、玄関の扉を閉めた。
そして、深々と頭を下げるフリッツに詰め寄った。

「……き、君は何者だ。正樹は入院することになっている。わけのわからぬことを玄関先でわめいていないで、今すぐ帰りなさい。無礼な訪問は迷惑だ」
「どうか話を聞いてください。わたしはドイツの陶芸家で、フリッツと言います。ローテンブルグの陶芸マイスターです。正樹さんとは美術館で知り合いました。わたしたちは互いを知って、共にいるのが最良と考えました。」

父親は動揺を隠せない。必死に否定の言葉を探していた。

「ふざけたことを言うな。何が最良だ。勝手に家を飛び出して、帰って来たかと思ったら、病気だというじゃないか。くださいと言われて、はいそうですかとどうして言えるんだ。犬猫の子供じゃないんだぞ。まずは病院できちんと治療を受けさせる。」たち上がるとフリッツはゆうに190センチはあるので、どうしても見下ろす形になる。
正樹の父親は、きつい視線で睨みつけたままだ。

「お聞きしてもいいでしょうか。大学病院での治療は、正樹の為になると思いますか?」
「当然だ。正樹は分家とはいえ、この家の跡取りだ。死んでもらっては困る」
「あなた……正樹の前で、そういう言い方は……」
「最新の治療を受けさせると、決めたんだ。誰が何と言おうと、譲らん」

厳しい口調も、結局は正樹を思っての事なのだとフリッツは理解した。

「わたしは正樹の病院の医師と話をしました。正樹は現在、病状も落ち着いて小康状態だそうです。医師は、正樹が好きなことをして、好きなものを見て、今の状態が長く続くのが一番いいのではないかと言っていました」

フリッツは言葉を重ねた。

「正樹がしたいこともせずに、何もかも諦めて治療したとしても、それは正樹にとって良いことだと思えません。わたしは正樹が自由に生きることを望んでいます」
「……それが正樹の命を縮めることになってもか……」
「正樹のお父さん。お母さん。わたしもお二人と同じ気持ちです。正樹を愛しています。地球上の誰よりも正樹を慈しみ愛してくれたお二人の存在は、わたしにとっては正樹と同じように大切です」
「どこの馬の骨ともわからん奴が、何を言う。大体、西洋人に日本人の何がわかる」
「すべてをわかるとは思いませんが、分からないことは言葉を重ねれば理解できると思っています。わたしの事を、理解してください」

玄関の上り口に、母親はいつしか座ってフリッツの話を聞いていた。いつくしみ育ててきた息子をまっすぐに愛しているという異国の青年。

静かに絵を描いているばかりだった正樹が、こんな風に誰かを愛し、愛される日が来ると実感できる日が来るとは思っていなかった。
どこか寂し気で、同年代の子供の中に居てもその存在は、母の目にも浮いていた。
女性が愛せないと、両親に打ち明けた日から、正樹は自分を責めていた。理解できない両親の庇護から離れ、独りつましく生きていたのは、母親も知っていた。
正樹の時間に限りがあるのなら、自由に生きさせてやりたい、愛する人の腕の中に預けてやりたい……母の願いはフリッツの想いと重なっていた。

「正樹……この方が好きなの?」

三人のやり取りを困ったような顔で、見つめていた正樹が小さくうなずいた。
上気した頬で恥ずかしげに言い切った正樹を、フリッツは抱きしめた。

「正樹……ありがとう。わたしも正樹と共に生きたいです」

父親は苛々と吐き捨てた。

「まるで、幼稚園児のままごとだ。愛だ、恋だと言う前に、これからどうやって食っていくかビジョンはあるのか。理想は語れても、現実は甘くはないぞ。見知らぬ国で病人を抱えて、暮らしていく方法はあるのか。親にたかるつもりなら、話は別だがな」

正樹が反論しようとするのを、フリッツは優しく制した。
「……わたしは物乞いではありません。ドイツで認められたれっきとした陶芸マイスターです」

きっぱりとフリッツは言い切った。

「見てほしいものがあります……これは、わたしの物です。正樹がデザインをしてくれました」

フリッツは梱包材で大切に包まれたものを、大きなバッグから取り出した。

「え……?デザイン……って、僕がドイツに帰るフリッツに渡したもの?」
「そうです。素晴らしいデザインに感銘を受けて、わたしが作りました。これを見れば正樹の才能がよくわかります。繊細で優美で素晴らしい……わたしはわたしの作る焼き物全てに、正樹が絵を描いてくれたらと考えています。どうぞご覧になってください」

い青躾手をな一



そんな機会はなかったが、自分を助けてくれた唯一無二の彩を守る為なら、きっと朔良はどんなことでもやってのけたはずだ。
彩の存在だけが朔良を支えていた。

夕暮れの自転車置き場で、二人の影が重なったのを見てショックを受けた。

「あ……っ……」

心に刃を突き立てられるような風景を見ても、彩に向ける思慕だけは変わらなかった。ひっそりと遠くから彩の姿を見健營瘦身計劃て居たいと願っただけの朔良を、悪魔が蹂躙する。
陸上部部室に入部届を持って足を踏み入れた時、朔良はいきなり誰かに襲われた。
ぐるりと天地がひっくり返る。

成長した朔良は、社会と隔絶された高校という狭い世界では、何も起こらないだろうと油断していたのかもしれない。
だが、朔良の容姿は思春期を超える頃には、本人の思いとは裏腹に爛漫と咲く華美な枝垂れ桜のようにどうしようもなく際立っていた。
同じ年代の同性の中に入ると、異質な美貌は顔を伏せていても注目を集める。
誰かに言わせれば、物憂げに佇む朔良は「手折るべき一輪の花」だった。
一途で潔癖な性格にそぐわぬ妖艶な容姿を持ったのが、朔良の一番の不幸だった。

*****

姿かたちは違っても、這う手と荒い息に、自分を襲ったのが鏡の向こうからいつも朔良を呼ぶ夢魔だとわかった。
夢魔は数人居て、容赦なく朔良を蹂躙した。

「あ……あぁっ……!おにいちゃん……!助けて!」

助けを呼ぶ声も伸ばした手も、彩に届かなかった。
乱暴されたことは、誰にも知られてはならなかった。
誰かの口から自分が穢されたと、彩の耳に入るのを朔良は恐れた。唇をかみしめ、朔良はあの日のように呆然と虚空を見つめたまま静かだった。

「明日も来いよ?良いな。仲良くしようぜ?」
「可愛いなぁ……何か、そこらの女より綺麗な面してるのな、お前。誘ってるような濡れた目だな、ぞくぞくする。……こういう美人、何ていうんだったっけ……青蛾?」
「俺のものになれ、朔良姫。手放すのが惜しくなっちまった。」

あちこち撫でまわしながら、相手が吐いたその言葉にはっと瞠目した朔良は、自分が再び恐ろしい夢魔の手に落ちてしまったのだと理解した。
そして黙って耐えてさえいれば、いつか相手が女ではない骨ばった自分に飽きて自由になれるだろうと考えた。

どれ程嫌悪しても、雪花石膏の肌が薄く色づき、胸の突起が朱色に固くしこる。
やわやわと揉みこ營養師推薦まれて、屹立する青いセクス。
気持ちを裏切り、生理的に反応する自身の身体を朔良は呪った。

のしかかる巨躯に蹂躙されながら、唇をかむ朔良を眺める島本という名の夢魔は、上機嫌だった。不思議と島本は、朔良の身体を手酷く痛めつけるようなことはしなかった。

グラウンドの片隅の部室の中に迷い込んできたような朔良を、面白がって仲間と共に貶めたのち、改めて朔良の姿を陽の中で見たとき、島本は驚愕し密かに固唾をのんだ。
粗暴な島本は、倒れ込んだ朔良の姿に一目で心を奪われた。そして無垢な天使の純潔を穢したことに畏怖し、後悔していた。

島本は、乱暴者だったが一度朔良を酷く抱いた以外は、壊れ物に接するように注意深く扱った。
そればかりか自分以外の者が、朔良の肌に勝手に触れることを許さなかった。

「これからは、あいつに手を出すな。あいつは俺の女にする。いいな。」

顔を見合わせた彼らは、不満を押し込め仕方なく島本の言葉に従った。

*****

朔良は島本にどんな目に遭わされても、大好きな彩の姿を見る為だけに、学校に通っていた。
時折、練習中の彩が視線が絡めて手を上げてくれる。確証のない、ほんの数秒の逢瀬の為に、朔良は不良の巣食う陸上部に在籍した。
朔良が上級生と付き合っているという噂は、一部の生徒の間で広がったが彩だけは知らなかった。


それから数年後、朔良は彼らと思わぬ再会をする。
交通事故で大怪我を負って以来、高校を休学し一切関わりもなくなっていたはずだった。

最近、朔良は医師に勧められて、リハビリのため近くの温水プールに通っている。
そこには、主治医の友人で、健康運動実践指導者と理学療法士の資格を持ったインストラクターが居る。
一般客が少ない空いている時間に、僕の患者を入れてくれないかという友人の言葉を訝しく思っていたインストラクターは、朔良が入会申し込みに訪れた時、「なるほどね」と口にした。
今は、その言葉の意味が解るようになっている朔良は、小さく頭を下げた。
インストラクターは表情を変えない美々し年に、ちらと不瞥をくれるとスケジュール表を渡し、淡々と極めて事務的に足の話だけをした。

「そこに上がって、足を投げ出してくれる?どれだけ動くか知っておきたいんだ。」
「はい。」
「リハビリはどれほど痛くても我慢して、動かすしかないんだ。君の先生もそう言ったは營養師推薦ずだけど……この様子だとあまり熱心にリハビリをしていないね。違うかな?」
「ええ、一度放棄しました。……反省してます。」
「取り返すのは大変だよ?ほら、ピアノの練習を三日さぼれば、元通り弾けるようになるには一か月かかるって言うだろう?ああいうものなんだ。頑張れる?」

そう言いながら、筋肉が固まってしまった朔良の足首に伸ばし、ぐいと力を入れた。思わず顔をしかめた朔良が、相手の顔を凝視する。

まれを回してい


***

「う~ん。そこの陰影は、少し抑えた方がいいね。ちょっと目立ちすぎるかな」
「はい」

素描に励む正樹の背後から、美術教師が声をかけた。

「そこは光が当たっているけれど、パンで削ると白くなりすぎる。指の腹で擦ってごらん」
「こうですか?」
「それでいい。相良君。君のマルスはこれまでとても穏やかな顔をしていたんだが、最近何か生活に変化があったかい?」
「……何かおかしいですか……?いつも通りデッサンしているつもりですけど……」
「そうかな。君にしては険しい表情のような気がしたんだが……不思議だね。毎日見ていると、君のデッサンはNeutrogena 面膜機意外に雄弁なんだと気づくよ」
「自分ではわかりません」
「そんなものかもしれないね。色々な表情のマルスがいて楽しいね」

少し離れて自分のデッサンを眺めてみても、別段変わったところはない。
物言わぬ石膏像にそっと触れた耳に、柳瀨の哄笑が聞こえた気がして思わず身じろいだ。
放課後、旧校舎に来るように言われていたのを、不意に思い出した。

「あの、先生……。生徒会の仕事を手伝う約束をしているので、今日はこれで失礼します。ご指導ありがとうございました」
「そうか。最近、君は忙しいんだね。でも、ここに籠ってキャンバスに向かっているばかりじゃない方がいい。行っておいで」
「はい」

震える指で、静かに木炭を片付ける正樹の横顔を、美術教師は見ていた。
白皙の清らかな少年の憂いを彼は知らない。

「いったい何があったんだろうね。君は知っているかい?マルス
柳瀨の行為自体は稚拙なもので、正樹の身体が傷つけられるようなことはなかった。
後にして思えば柳瀨もまだ未熟な少年で、大人びた言動ほど成熟していなかったということなのだろう。
女性との性行為を経験していても、男性と身体をつなぐ方法を知らなかったのかもしれない。
だが、柳瀨は新しい玩具に執拗に夢中になる子供と同じで、なかなか正樹を手放そうとしなかった。
柳瀨は苦痛に歪む正樹を、微笑みながら言葉で苛んだ。

正樹の精神は崩壊寸前だった。
旧校舎の生徒会室で、柳瀨は正樹の上に君臨する絶対君主になる。
古いソファの上に転がった正樹は、全身を総毛立てて、執拗に加えられる愛撫Neutrogena 面膜機に耐えていた。

「ねぇ。ここは感じる……?」
「う……っ。うっ……」
「ああ、声が出せなかったんだね。苦しそうだ……取ってあげるね」
「うっえっ……はぁっはぁっ……」

口に突っ込まれたハンケチをやっと吐き出して、汗だくの正樹は息をついた。自分の唾液が糸を引いて床に落ちる。
涙が出るほど、生々しいのが嫌だった。

「なんか君のセクスって、俺のものとは色も形も違うんだね。何でかなぁ……こんなところまで可愛いなんて驚くよ。誰にも見せたことないんだろ?」
「……」
「もっと見せてよ。脱いで」

柳瀨の眼前には、むき出しにされた正樹の下肢がある。制服の下だけを脱ぐようにと言われ、従うしかなかった。
薄い下草は辛うじてそよいでいるくらいの分量で、半分皮を冠った薄桃色の子供のセクスをじらすように、あやすように指先ではじいていた柳瀨は、何かを思いつき窓際へと誘った。
窓枠に手をつく様に言われ、正樹はわけもわからずそうした。
背後から柳瀨が、正樹の首筋に意地悪く囁く。

「君の親友の田神が、キャッチボールしている。ほら、ごらんよ……」

柳瀨の指が背中から回って、シャツの裾から侵入する。片手は胸を探り、もう一方は正樹の若い茎に触れていた。
「この間、君が倒れた時の田神の慌てようったらなかったね。ちゃんと食べないから、貧血で倒れたりするんだって怒ってた。彼はいつもあんな風に、君の心配をするの?」
「倒れたの……初めてじゃないから……それに、田神の家は近所だし……」
「本気で心配していたね。君も田神の事を好きなの?」
「友達です……」
「あの後、自転車の荷台に乗って、田神の腰に手ただろう?」
「な……に?」
「俺が見ているのを知ってて、わざとそうしたね?妬かせたかったのかな?」
「そんなことしない……」
「虫も殺さぬような顔をして、俺を煽るなんてあざとい真似をする。こんな風に、俺の手で下半身をおっ立ててるなんて、田神が知ったらどうするかなぁ?」
「あぁっ……!」

芯を持ちかけたセクスを、突然強く握り込て、正樹は小さく悲鳴を上げた。
思わずどんと柳瀨の肩を強く押した。
涙が滲む。

「どうして?……いつまでこんなことをするの……僕は、もう嫌だ……」
「相良」

壊れた球体関節人形のように、力なくずるりと体が落ちる。

「誰ともこんなことしたくない。嫌だ……いや……もう、死にたい……あぁっ……」
「相良……落ち着いて。いい子だから」

泣き出した正樹の顎をついと持ち上げると、柳瀨は唇をそっとNeutrogena 面膜機吸った。
この上なく甘く優しく。
この上なく冷たく残酷に。

答え逢わ


「そ、そのようなことは???ただ、お聞きしておりましたクシナダヒメさまと、余りにご様子が違いましたので、多少驚いたのは確かです???」

「おねえさんたち。ぼくがちびのころから、いつも遠くからじっと眺めていたでしょ?」

「ちびのぼくを、みんなで怖がらせて喜んでいたんだ、???悪趣味だねぇ。」

「あの。それは、お元気でお過ごしかどうか、ご様子を伺いに参っただけでございますよ。」

ほら、やっぱりそう研究 中心だったんだ。
意外な種明かしに、少しばかり驚いた。

気を良くして、もう少し話を振ってみた。

「姿は見えないけど、クシナダヒメっているんだよね?この屋敷の中に。」

おねえさんは、それには応えずその場に突っ伏して「お許しくださいませ。」と平身低頭だった。

「いやだなぁ???ぼく、先に一目会いたいと思っただけだよ。だって???」

「ぼく、「そのため」に呼ばれたんでしょ?」

カマをかけてみた。

「それにね、「関係」あるんだもの。会いたいと思っても不思議じゃないでしょ?」

「ご存知だったんですか?」

思いがけず、返答のその声は明るい。
何が何だか分からないけど、とりあえずぼくは知ったかぶりをして、深く頷いた。

「ああ。左様でございましたか。では、神楽の席であなたさまがクシナダヒメ様と魂を交代なさるのも、御承諾なさったのですね。」

「ご決断されるかどうか、みなで気を揉みました。ああ、良かった。」

魂の交代????ざっと血の気が引くのが自分で分かった。
そうか???そういうことか。

「やれ、嬉しや。」

「緋色様の、積年の思いが成就する、めでたき日が今度浸會大學BBAこそ来ようとは。」お姉さんは、嬉々として俄然、口が軽くなった。

「とうとう、クシナダヒメさまの血流、稲田家とヤマタノオロチの血流、海鎚家の御婚姻が叶うのですね。」

「まことに、おめでとうございます。」

「あ???、はい。」

もう、いいよ。

解ってしまった。
親父が頭を下げた、人身御供と言う意味。
ぼくがぼくでなくなるという、本当の意味。

孤立無援、と言う言葉くらいいくら物を知らないぼくでも知っている。
もう1つ、こんなときに使うのは、四面楚歌だっけ????
妙に冷静になっている気がする。

???違う。
今のこの気持ちはたった一人何も知らなかった、単なる「疎外感」だ。
昨日みたいに、ぼくの身体を誰かに(クシナダヒメだか姉ちゃんだか)明け渡すために「神楽」が奉納されるってことなんだろ?
親父とお袋を前に、ぼくはずるずるの着物のまま、仁王立ちしていた。

「ぼくは、この世から綺麗さっぱり、いなくなっちゃうってことなんだね。」
「クシ、すまん。」

もうこれ以上、隠し切れなくなったと悟って、親父は饒舌に語った。

「こうなったら、知っている限り、何でもるから聞いてくれ。」

居直ったような父親と、黙って涙ぐむ母親と何だか、いつもと様子が違っていた。
二重にぼんやりと、白髪頭の老夫婦が見えるような気がする。

「姉さんか、妹か知らないけど、ぼくがちびのときに亡くなった人とぼくの魂が入れ替わるんだろ?どこにいるの?」

「もう、分かってしまったんだから、会えるのならせて。話をするくらいいいでしょ?」

断られるかと思ったけれど、おふくろがすっと立っていらっしゃいと言って、部屋を出た。
案外女の人のほうが、いざとなったら肝が据わっているのかもしれない。
古い屋敷の中浸大工商管理を迷う事無くお袋は歩き、やがてクシナダヒメの絵をかけてある部屋に入った。
この家で、ぼくが最初に通された部屋だった。

凪の保持する天


その日、詩鶴ははにかみながら、畑のシロツメクサで作った花冠と首飾りを、おずおずと差し出した。

「おばさま、お誕生日おめでとう。」
「おめでとう、ですって?」
「何がめでたいの?こんなもの!」

天音の母は詩鶴の心づくしを払いのけたばかりか、ヒールのかかとでWedding Shoulder 價錢踏みしだいた。
驚きのあまり大きな目を見開いたまま、詩鶴は言葉を失って立ちつくし呆然としていた。
足元には、心を込めて作った花の残骸が散らばっていた。
涙を零す暇も与えないような激しい憤りに、傍にいた天音の胸にも何故…と疑問が渦巻いた。

「お母さん。詩鶴を叱らないで。ぼくがお母さんのお誕生日を教えたんだ。」
「詩鶴はただ、お母さんに喜んでもらおうと思っただけだよ。こんな???」

その時の母の視線を天音は一生忘れない。
いたいけな子供に向けた憤怒の表情は、天音が思わず後ずさりするほど烈しい物だった。
天音には、何とかそこから詩鶴をそっと連れ去ることしかできなかった。
涙を浮かべた可愛らしい天使は、そこから先もいつも悲しい目にばかりあっていたように思う。
幼い詩鶴を守ってやりたかったが、あまりに若い天音は無力だった。

*************************

「天音お兄ちゃん???」
「???ぼく、わるい子かなぁ???」

踏みしだかれた、花冠の残骸を悲しげに詩鶴は見つめていた。

「詩鶴が悪い子のわけないだろう?」
「でも???でもね???、おばさまは、ぼくをきらいね????」

鈴を張ったような大きな目を向けて、詩鶴は天音に出せない答えを待っていた。

「どうしてかなぁ???」

詩鶴は誰に問うでもなく、一人理不尽な嵐に耐えていた。
宥める言葉を失って、天音は仕方なく小さな詩鶴を背負うと花の下を散歩した。
病院経営にDerma 21 好唔好忙しい父親は、妻に似た詩鶴を眺めるのが辛かったのだろう。
いつも詩鶴の世話は、家政婦任せにしていた。
たった一人、誰も話し相手のいない食卓で、詩鶴は一人で食事をとった。
受験勉強で忙しい天音と過ごすわずかな時間だけが、詩鶴の安らぎだった。

「詩鶴???」

いつしか小さな寝息が聞こえる。
背中で重くなってきた温もりのある存在に、天音はほっと息をついた。
満開の桜の下で、同じ顔の儚い女性に託された少年を天音はそっと前に滑らせ、抱きなおした。
閉じた目元に、涙の跡がある。
柔かい頬に唇を寄せ舐めたら、甘い塩の味がした。


拙作「新しいパパができました」の前の話になります。
詩鶴が生まれたところから、お話は始まります。
よろしくお願いします。

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ランキングに参加していますので、よろしくお願いします。


天音が全てを知るには、まだしばらくの時を擁した。

10歳の年の差はどうしようもなく、受験を控えた天音は詩鶴と過ごす時間が減ってゆくのを気にしていた。
全国区の進学校、州灘高校でも常に上位の成績を音に周囲の期待は大きく、父親のように優秀な外科医師になる道を嘱望されていると感じていた。

「今度もA判定なのね。あなたはお祖父様に似たのね。お母さん、鼻が高いわ。」

気位の高い母は、天音が自分の理想通りに成長していると喜び、その愛はすべてわかりやすく過剰に注がれていた。
負担に思うこともあったが、それでも母の機嫌を損ねるわけには行かなかった。
母の怒りは、なぜか常に詩鶴に向かうから???。

「お母さん。この分だと医学部は大丈夫のようです。」
「僕の数学好きは、お母さんに似たんですね、きっと。正直、苦にならなくて助かってます。」

天音は自分に似た顔を覗き込むと、母の自尊心をくすぐった。
元来男子は、母に似るのだ。
天音の成績に母は満足し、その姿に息子は安堵する。
自分が期待に応えてDerma 21 好唔好さえいれば、母は夕ように穏やかでいられるのだ。

「お母さん。時間大丈夫ですか?笹塚のおばさまは、きっと首を長くしてお待ちですよ。」
「そうだわ、もう行かないと。今日は帰りも遅くなりますからね。お父さんにも伝えておいて。」
「ええ。」

に断しが決


「すみません。図々しくお世話になります。」
「エアコンは使えるが、建物と一緒で家具も風呂もずいぶん古いんだ。不自由が有ったら何でも言って来ると良い。他の学生向けマンションの空き部屋から、取ってきてあげるよ。」
「ありがとうございます。家電があると直ぐに生活できるんで助かります。」

尊の友人が紹介してくれたアパートは、琉生の校区内の場所で駅前の繁華街から少し離れた静かな所にあった。

築40年の古いアパートは、数年後には取り壊まっていて、新しいマンションが立つ予定らしい。家主の話だと、残って實德金融いる入居者も、今は数人しかいないという事だった。
無償でも構わないよ、というありがたい申し出はさすがって、格安で家財付きの部屋を借りた。

尊は荷物を運びこむとホームセンターへ行き、掃除機やアイロンなど少しの小物家電と布団を買った。
自分も独り暮らしをしているから、必要なものは分かる。洗濯機や冷蔵庫など、最小限の生活必需品は揃っているので、出費も大した事は無い。
そのまま、琉生を迎えに行く。

「琉生!」
「あ。尊兄ちゃん!」
「もう引っ越し終わったぞ。行こう。初めての一人暮らしだな。」

夕方、校門で出て来るのを待っていた尊は、そのまま車で琉生を新しい住処へと案内した。琉生は助手席で、不安そうにしていた。
初めての一人暮らしだ、無理はない。

「学校からも塾からも近いんだ。いい場所だろ?」
「うん。え~と……すごくアンティークな建物だね。」
「築40年ものだからな。でも中は、思ったより綺麗なんだ。解体が決まってから、住人も引っ越しを始めているから、静かだよ。」
「じゃあ、あまり人がいないんだね、ここ。」

琉生は鍵を受け取ると、自分の城になった部屋へと足を踏み入れた。

「わぁ~……台公屋二按所とは別に2つも部屋がある。へぇ~、家具もこれ全部備え付けなの?」

琉生はあちこち見て回った。

「エアコン何て贅沢だから、扇風機で我慢しろと言いたかったんだが、備え付けなんだ。建物は古いけど、家電はまだ三年くらいしか経ってないそうだ。いい物件だろ?」
「でも……尊兄ちゃん。ぼく、高いところは払えないよ?夏休み以外、バイトはできないし、お母さんのお金は大事に使わないと。うんと、切り詰めなきゃ。」
「心配するな。同級生の親が不動産屋だったんだ。友達割引で、敷金礼金無しで家賃は3万5千円だ。しかも光熱費、水道代込みだぞ。」
「すごい~!尊兄ちゃん、見て、見て。トイレとお風呂が別々だ。」

話も聞かず、違うところで感動している琉生の姿を見て、尊は吹きそうになった。

「気に入ったか、琉生。」
「うん。ここなら油絵描いても平気だね。臭いを気にしなくていいなんて、うれしいなぁ。ぼくね、美術部で油絵始めたから、自分のアトリエが欲しかったんだ。それに、部屋があるから、尊兄ちゃんにも隼人兄ちゃんにも泊まってもらえるね。」
「そうだな。早速、隼人が帰りに寄るそうだ。晩飯はどうする?」
「近くにスーパーあったっけ?」
「あるぞ。行ってみるか?」
「うん。ぼくカレー實德作るよ。三人で食べよう。」

からを着てお


心配の余り何度も顔を出す直正に、風邪をうつしてはいけませんからと、叔母は面会を許さなかった。
やっと熱の下がり始めた日の明け方。
夜が白む前、厠に立った一衛は、雨戸から細く差し込む月の光の中で、たくさんの白うさぎが跳ねるOtelia 脫殼亞麻籽夢のような光景を見た。
朝、床上げをしながら、雨戸を開ける母に嬉しげに声をかけた。

「母上。一衛は夕べ、可愛い雪うさぎが集まって、仲よくお庭で遊ぶ夢を見ました。」
「一衛。それは夢ではないかも知れませんよ。ほら、こちらにいらっしゃい。」

母は一衛を呼ぶと、厚い綿入れを着せかけた。
雨戸を開け放した一衛は、夕べの夢が現実だったと知り、歓声を上げた。

「わぁ……!たくさん。」

狭い庭一面に、たくさんの雪うさぎが跳ねていた。
きらきらと雪の結晶が朝日を弾く。
鮮やかな赤い実を目に使い、小さな耳は、難を転じると言われる南天の葉。
大きなうさぎの横には、寄りそうように小さなうさぎがいた。親子のようにも、兄弟のようにも見える。

「誰かのいたずらかしら。それにしても、ずいぶんたくさん作ったことね、可愛らしいこと。」

一衛には、庭一面で跳ねる雪うさぎを誰が作ったか分かっていた。

「母上。直さまは?」
「直さま?……ああ、そういえば、今朝は臥せっておいでになるそうですよ。毎日鍛練なさってBetter Life 清潔液いる直正さまにしては、お風邪を引くなんて珍しいことね……一衛?床上げをしても、熱が引いたばかりなのですから、まだ戸外にでてはいけませんよ。」
「直さまにお見舞いに差し上げたいのです。綿入れ庭からお届けに参ります。母上、お盆をお貸しください。」
「長い時間、戸外に出ては駄目ですよ。やっと床上げしたばかりなのですからね。」
「あい。」

一衛は、庭に降り積もった柔らかな新雪の上に降りると、そっと掬った。
ふわりとした雪の結晶が、眩く陽を弾いて光る。

「直さま……」

大好きな直さま。
お優しい直さま。
父上よりも、母上よりも一衛に優しい直さま。
いつも一衛は、直正が大好きだった。
この感情がどういうものか、まだ幼すぎてよく分なかったが、慕う気持ちは本物だった。
どこまでもどこまでも、直さまの後を付いて行きたいと思っていた。

お風邪を引いた直さまにお見舞です……と文を添えて、届けられた枕辺の雪うさぎ。
直正の作ったうさぎの傍らに、一衛が懸命に作った不恰好な小さなうさぎが並んでいた。
縁側からそNatur-a豆奶っと覗き込んで、病床の直正を見舞った一衛が、「直さまと一衛です。」と笑った。